転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


94 冒険者ランク、上がるの?えっ、えっ?



「ところで5匹獲って来たって事は、あと2匹あるんですよね?」

「これはお母さんへのお土産だからダメだよ」

 ルルモアさんが欲しそうにしてたけど、これはお家へのお土産だからダメだよって言ったんだ。
 だけどお父さんが、

「ああ、うちへの土産は肉だけでいいから羽根とか魔石とかはギルドに売ってもいいですよ」

 なんて言うもんだから、解体されちゃった。

 もう! お母さんにこんなに綺麗に獲れたんだよって見せるつもりだったのに。

 でもまぁ、嬉しそうなルルモアさんの顔を見てたらそんな事を言い出せる筈も無く、僕は仕方ないなぁって思いながら納得する事にしたんだ。

 と、そんなやり取りをしていた時。
 ギルドのカウンター後ろにある階段を、大きな体をしたお爺さんがのっそりと下りてきたんだ。

「あらギルマス。珍しいですね、下まで降りてくるなんて」

「いやなに、中央からの依頼であったブレードスワローが入荷したと聞いたのでな」

 降りてきたのはギルドマスターのお爺さんだ。

 お爺さんはルルモアさんのところまで来ると、机の上の羊皮紙を見てブレードスワローの依頼が納品完了になっているのを確認。そして僕の方を見て迫力ある顔でニカって笑ったんだ。

「ありがとう、本当に助かった。いやぁ、年に数匹しか獲れないこいつを3匹と言われて、本当に困っていたんだ」

「それもこれも、ギルドマスターが全部悪いんですからね」

「いやはや、面目ない」

 ルルモアさんに言われて、申し訳なさそうに大きな体を縮ませて謝るギルドマスター。
 僕はその様子がおかしくって、つい笑っちゃったんだ。

「あっ、そうだ。ルルモア、ルディーン君の冒険者ランクだが、Dに格上げだ。冒険者カードを更新しておいてくれ」

「解りました」

 そんなやり取りがあった後、ギルドマスターは急に思い出したようにそんな事を言い出したもんだから、びっくり。
 でもルルモアさんは、そんなギルドマスターの言葉を何の疑問も無く受け入れて返事をしたから二度びっくりだ。

「ちょっと待ってください。ルディーンはまだ8歳ですよ。Dランクの実力なんて当然まだ付いてないし、何よりランクアップは実績が溜まって、その後試験を受けないと上がらないはずでしょ?」

 そんな二人に対して、おかしいよって声をあげたのはお父さん。
 そう言えばそうだよね。僕が冒険者ギルドに登録した時にも、ランクを上げるのには実績を積まないといけないって言ってたもん。
 なのに、急にランクがEからDに上がったって言われても、困っちゃうよね。

 ところが、そんなお父さんにギルドマスターは、

「何を言っておる。ルディーン君ならランクアップする為の実績は十分溜まっとるだろ」

 なんて言ったんだ。
 でもお父さんは納得できなかったみたいで、ルルモアさんのほうに視線を向ける。
 多分ギルドマスターに聞くより、ルルモアさんに聞いた方が解りやすく答えてくれると思ったんだろうね。

 その視線を受けて、ルルモアさんがお父さんだけじゃなく僕にもちゃんと解るように説明してくれたんだ。

「ルディーン君は先日、イーノックカウ近くの森で多くの冒険者が毒を受けた事件の時に、このギルドで治療にあたってくれたでしょ? あれは十分に実績に値する行為だったの。そしてその時に齎してくれた魔力は目を瞑って座り、そのままじっとしているだけで回復すると言う情報。これに至ってはギルドだけではなく国からも褒賞金が出るほどの功績ですから、当然実績になります」

 そう言えばそんな事あったなぁ。でも怪我してる人を治したり、誰でも簡単に気付けそうな事でも冒険者のランクが上がるなんて思って無かったから、この話を聞いた僕はびっくりしたんだ。
 でも、何故か隣で聞いていたお父さんは納得したみたい。

「なるほど。確かに言われてみれば冒険者のランクが上がるだけの実績にはなっていそうだ。でも、試験は? ランクを上げるのには試験を受けてそれをクリアする必要があるのではなかったんですか?」

「ああそれは簡単ですよ。ランクを上げる試験というのは、ギルドが指名した一つ上のランクの依頼をクリアすると言うものですから。この場合、ルディーン君はDランクどころかBランクの指名依頼をクリアしたのですから、文句なしに合格です」

 へぇ、そうなんだ。ランクアップの試験ってそう言うのだったんだね。
 でもそれなら確かに、Bランク依頼をクリアしてきたんだから合格って言われても納得だ。

「しかしルディーンはまだDランクの依頼をこなせるほどの実力も経験も無い子供ですよ? それなのにランクを上げるのは」

「ええ、そこがちょっとネックになりそうな所なんです。ですが、規定に達していないものをランクアップさせられないのと同様に、規定に達したものをランクアップさせないと言う事もできないんですよ」

 僕がランクアップするのはまだ早いって言うお父さんに、ルルモアさんは困ったような顔をしてこう言ったんだ。
 合格したものを昇格させると言うのはギルドの規則だから、特例は認められないってね。

 ただそう言った後、ルルモアさんはお父さんを安心させる為にこうも言ったんだ。

「でも、それ程心配なさる必要は無いと思いますよ。確かにルディーン君は幼いですから、たとえDランクの依頼書をカウンターに持ってきても私たち受付が無理と判断したら依頼を受理しません。将来有望な冒険者を無駄に危険に晒す気はありませんからね」

「うむ。確かにルディーン君は将来、Aを越えてSクラスになるやもしれん程の可能性を秘めた冒険者の卵だからな。うちのギルドとしても大事にしたい所だ」

「いえいえ。8歳でこれですから、もしかしたらSを超えて世界でも数組しかいないSSランクになるかもしれませんよ?」

 そう言って笑うルルモアさんとギルドマスターのお爺さん。
 そんな二人を見て、お父さんもやっと納得してくれたんだ。



「それじゃあルディーン君。ギルドカードを更新するから出して頂戴」

「うん」

 こうして無事ランクが上がる事が決まった僕は、腰のポシェットからギルドカードを出してルルモアさんに渡した。
 すると彼女はそのカードを何やら魔法陣が描かれた白い箱に開いた穴に差し込み、そしてその白い箱についているスイッチを入れると魔法陣が青白く光りだした。

「この光が消えたら更新完了だから、ちょっと待ってね」

 ルルモアさんが言うには冒険者ギルドのカードは魔道具の一種で、そこにはその人の実績とかが記録されてるんだって。
 そう言えば前に魔法での治療をしたり、治療を受けたりするとギルドカードに記録されるって言ってたっけ。あんな薄いカードなのに、色々記録されてるんだね。

 でね、あの白い箱はギルドマスターがランクアップしてもいいよって言った時だけ使われる魔道具で、そのギルドカードに書かれている実績がランクを上げるだけ溜まっていたら、それを差し込んで起動させる事によってカードに書かれたランクが上がるんだってさ。

「二重チェックみたいなものね。ギルドマスターの承認が無ければこの魔道具は使えないし、ギルドマスターの承認があっても実績が伴われていなければランクは上がらない。こうやって不正ができないようにしているから、冒険者ギルドのランク制度は信用が保たれているのよ」

 そう言って笑うルルモアさん。

 そっか、冒険者ランクが上がるとお金がいっぱいもらえる依頼を受けられるようになるし、何より高ランクの冒険者は皆から信頼されるって言うもん。なら、ずるして上げられない様にしないといけないってのは当たり前だよね。

 そうこうしているうちに魔法陣の青白い光がだんだんと弱まっていき、やがて消える。
 それを見たルルモアさんは僕のギルドカードをその箱から引き抜いて確認。そして、

「っ!? えっとこれは……どうしましょう」

 困ったような顔をしたんだよね。

 あれ、どうしたんだろう? そう思って見てたらルルモアさんは少し悩んだ後、近くにいたギルドの制服を着ているお兄さんに声をかけたんだ。

「ちょっと予想外の事が起こったから、急いでギルドマスターを呼んできて頂戴」

「はい、解りました」

 真剣な顔のルルモアさんに、大変なことが起こったんだって思ったお兄さんは急いで階段を上がって行ったんだ。
 そしてしばらくすると、どたどたと大きな足音を立ててギルドマスターが階段を駆け下りてきた。

「ルルモア、一大事と聞いたが一体どうしたんだ? ルディーン君の実績は十分で、魔道具を使えばランクが上がる事は確認しておいたはずだろう?」

「ええ。確認はしておいたのですが」

 ギルドマスターに大きな声と体で詰め寄られて、ちょっと引き気味のルルモアさん。
 なんとなく言いにくそうな顔してる所を見ると、もしかしたら実績が足らなかったのかなぁ?

 でも僕は、そんなにすごい事をやったって思って無かったからランクが上がらなかったって言われても驚かないよ。
 だって、魔法で怪我や毒を治したりMPの回復方法を教えてあげたからって、冒険者のランクが上がるほど凄い事だって思えなかったからね。

 ところが冒険者ギルドのカウンターの中では、そんな僕の考えとはまったく逆の事が起こってたみたいなんだ。

 おずおずと僕の冒険者ギルドカードをギルドマスターに差し出すルルモアさん。そしてそれを見たギルドマスターはと言うと、

「っ!? まさかこんな事になるとは……うむ。流石に予想もしておらんかったわ」

 その僕のカードを見て、物凄くびっくりした顔になったんだよね。

「ええ。多分試験の指名依頼が本来の試験より高ランク依頼だったからこの様な事になったと思うのですが。それにしてもこんな事が起こる事もあるんですね」

 そしてルルモアさんはそう言いながらギルドマスターからカードを受け取り、そのまま僕に差し出してきたんだ。

「此方の手違いと言いますか……今までの実績と昇級試験の結果から、ルディーン君は無事昇級しました。今日からあなたはCクラスの冒険者よ」

「なんだ、ランクが上がらないんじゃないんだね。そっか、Cランク冒け……ええっ、Cクラス!?」

 何でか僕、Dを飛ばしてCランクになったみたい……。




 ルディーン君はすでに賢者10レベルになっている上に、サブジョブの狩人まで習得しているから、強さ的には不思議ではないんですけどね。
 それに実は高レベルモンスターのソロ討伐も実績に数えられる為、ギルドカードにソロでのブラウンボア討伐が記載されているルディーン君は2つ上のCランクまで一気に上がってしまったと言う訳です。


閑話 1へ

95へ

衝動のページへ戻る